ここにパレスチナ問題に関する１冊の本があります。 ２００３年９月２６日６７歳で亡くなられたエドワード・Ｗ・サイード氏の「ＡＦＴＥＲ THE ＬＡＳＴ ＳＫＹ」です。 パレスチナ問題を知るうえでの参考文献として多くとりあげられています。 サイード氏は知られているとおり、亡命パレスチナ人で中東・パレスチナに関する著書を 数多く書いていますが、パレスチナ亡命者として人生のほとんどをエジプトと米国ですご した、キリスト教徒の英文学者（比較文学）です。 この本は特に専門分野として研究をかさねた成果ではなく、著者の体験から生まれた視 点により書きつづられており、そしてその視点は「パレスチナ」という一点に向かっていま す。 ただ、その「パレスチナ」という視点は、決してパレスチナ当事者のものではありません。 さらに、それでいて教科書的な系統だった内容にはなっておらず、分断された記述の積み 重ねというかたちになっており、ときに叙情的でもある文脈で、パレスチナのアイデンティ ティーに言い及んでいます。 歴史的な文化をもつふたつの民族が１００年近くにも渡り多くの犠牲を払ってきた争いを、 一方的な視点から見ることは誤りであることは確かです。できるだけ中立的な立場で認識 することが求められますが、ほんとうの意味で中立ということもありえません。特にこのよう な問題を考える場合は、あまりにも事実を正しく確認することだけでは、知ってることがひ とつふえたことで終わってしまいます。 どんな痛みがそこにあるのか。ほんとうの怒りを体感することで共感が生まれます。真の 意味での当事者ではないからこそ、よけいに心に残り、どうしたら解決できるのだろうとい う素朴な思いが湧いてきます。そのことこそがそこに生身の人間（語り手と語られ手として） を感じることが出来ます。 そんな想いが読み取れるこの本を「パレスチナ問題」の手がかりとして紹介いたします。 |
